本連載の予定
第4回 数理親和音モデル
第5回 和声単位という和声構築法
第6回 和声の分子構造
第7回 増四度環と裏領域
第8回 調という幽霊を発生させる和声の反応領域
第9回 和声二元論が成り立たない理由
第10回 長調と短調の二極化から旋調性へ
第11回 負の音を作ってみよう
最終回 まとめ~ドミナントモーションから動和音へ
(※進捗によっては、若干のテーマ変更の可能性もございます。ご了承下さい。)
最終回 まとめ~ドミナントモーションから動和音へ 皆さん、こんにちは。 最終回までお読み頂き、心より感謝申し上げます。音楽理論と銘打つサイトに参加できた ことを大変うれしく思います。厄介な文章にお付き合い頂きました金子編集長はじめス タッフの皆様、ありがとうございました。
不定調性論は、まだまだ吟味が必要な音楽鑑賞法/分析法/作曲技法集です。
統一されたコンセプトは「理論」です。そして理論によってどのように音楽を捉えられる か、という結果の提示が大切です。 普段のレッスンで、私がその場限りの感性で語ってしまっては、受講される方の参考には なりません。私がどのように音楽を考え、結果としてどんな発想に至ったか、を示すこと で受講生は「それは自分の考えと違う」「私はそれをもっとこう考えます」とオリジナル な発想の確立に行きつきます。
これを 60 分というレッスン時間で明確にディスカッショ ンできなければいけません。そうした必要性から、私は自由度の高い解釈法を持つ音楽論 としての不定調性論をまとめ、必要であればこれを用い、受講生が自己のスタイルを確立 する起爆剤にする、というやり方を採用しています。
さて、最終回は教材第五章に出てくる「動和音」についてです。本邦初公開です。
Dm7 G7 |CM7 |
上記の和声進行が C メジャーキーの II-V-I であることは、容易に確認できるでしょう。 問題は「なぜ G7 は CM7 に向かった時、解決感を与えるか」です。 不定調性論では、これを「音楽的クオリア」という個別の感覚にまで分解しました。慣習的感覚であるドミナントモーションを“無視”することは私達の平均律文化圏では極めて 困難です。これは文化に根差した感覚である、という前提がある事を明記します。
教材ではドミナントコードそのものを完全に独立させました。 次のコード進行を弾いてみてください。
1. Dm7 G7 |Em7 A7 |Dm7 G7 |CM7 |
2. Dm7(♭5) D♭7 |Em7(♭5) E♭7 |DM7 G7 |CM7 |
1は例示的なコード進行でしょう。しかし2は変則的です。それでも最後に G7⇒CM7 があ ることで C メジャーキーを認識できると思います。
これを「ドミナントコードの独立」と捉えるのです。
短調の V7 は、長調の V7 を借用したものだ、という解釈がありますが、不定調性論では、 この解釈を発展させて、V7 はあらゆる場所に挿入されて I に帰結する時、調の発生を感 じさせる独立した和音である、としました。
この独立した和音=属七和音の特性は一体何なのでしょうか。 その問題を、その和声構造の中に創出してみました。 属七和音は、自然倍音の第七倍音までを和音化したものである、という発想を聞いたことがある人もいらっしゃるでしょう。この発想を更に押し進めます。 発想の過程は省略しますが、
G7⇒G△+裏領域音 f
とします。この裏領域音については、本連載第七回でも扱いました。ある音から増四度上 の音のことです。この裏領域の存在は、本連載第四回で提示した「数理親和音モデル」と 考え併せると、増四度の同時確立は、12 音全てへの親和可能性を作り出してしまう、と いう構図でしたから「その和音の内部音よりも外部音への連鎖及び親和を拡大する」とい う存在にならざるをえません。これは科学的な性質ではなく、不定調性論の考え方ではそうなってしまう、という「浮かび上がった公式」に基づいて方法論を作り出していく一貫 性を重視したわけです。
話が前後しますが、G7 が自然倍音から作られたのだとしたら、その基音である g に解決 するのが本来なら最も理論的です。つまり下記のとおりです。
G7⇒G△
しかし、調的感覚を持つ耳には、G7 が G△に帰着するよりも、C△に帰着した方が、解決 感があるはずです。ここに小さな論理の矛盾があります。この矛盾を感覚的に解決するた めに、先に確立した「裏領域の同時確立の時に表出する 12 音への拡散親和性」を活用す るわけです。つまり、
G7 が裏領域の同時確立された和音である、と分析時に設定した時、この和音は G7 内部の 音に解決するよりもその外部の音への親和を優先する和音である、と規定するわけです。
そうなってはじめて G7 が CM7 や Cm7 に向かうベクトルを論理的に作り出すことができま す。そして機能和声論のドミナントモーションの構図をこの裏領域の同時確立という考え 方で導き出すわけです。
更にこの考え方を発展させます。G△の裏領域音は f だけではありません。
G△=g,b,d
g の増四度音=c#
b の増四度音=f
d の増四度音=a♭ というように、それぞれの構成音の裏領域音があります。これらを足したとしても、外部 の音への親和性は作れる、としなければ論理的におかしくなります。それでは以下の拡張 されたドミナントモーションを体験してみてください。
G7-CM7(または Cm7 等) G△(♭9)-CM7(または Cm7 等) G△(#11)-CM7(または Cm7 等)
これらはドミナント 7th のテンション感を有するので、斬新な感じはないでしょう。 さらにこの考え方をサブドミナントモーションに活用します。ここでは F△⇒CM7 をその 帰結進行として考えます。
F△=f,a,c
f の増四度音=b a の増四度音=d# c の増四度音=f#
F7-CM7 F△(♭9)-CM7 F△(#11)-CM7
新たなる拡張されたサブドミナントモーションです。 この「裏領域を追加した和音」を不定調性論では「動和音(どうわおん)」と呼びます。 外部の音への親和性⇒動的な性格を持つ和音、という抽象的意味になっていきます。解決 和音とするのではなく「他に進行したがる和音⇒落ち着かない動的な和音」という位置付 けです。そして動和音を拡張する段階に移ります。活用法をいくつか列挙します。
G7⇒CM7(#11)
これは CM7 の構成音 c の裏領域音 f#を CM7 に加えることで「動的な終止和音=ざわざわ するような感覚を与える落ち着かない終止和音」という状況を作ります。
Dm7(13)⇒G7(♭9)⇒CM7(#11)
ここでは Dm7 の裏領域音を追加して、さらに全体的に動的な要素を持つ和声進行を作りま した。
Dm7(♭5)⇒Gm7(♭5)⇒Csus4M7 これは動和音による和声解決進行の例です。こうした近代和声の属七和音のいくつかを動 和音という発想でかなり取り込めると思います。
教材では、さらに「静和音」を定義し「動進行」「静進行」と和声進行を分類できる手法 を拡大しました。またブルース 7th と動和音との違いも明瞭になります。 これは「属七和音の性格はいったい何か」という問題について論究したものです。なかな かこうした根本的テーマの発展を問う理論書もありませんので、今回掲載させて頂きまし た。先達の皆さまにいろいろご意見を頂けましたら幸いです。
話題は尽きませんが、これで一時修了となります。今回提示したアイデアが、皆さんの何かヒントになったとしたら、大変光栄で有難く思います。
最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。 ご質問、ご感想等はこちらまで。
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