本連載の予定
第3回 下方倍音列の活用
第4回 数理親和音モデル
第5回 和声単位という和声構築法
第6回 和声の分子構造
第7回 増四度環と裏領域
第8回 調という幽霊を発生させる和声の反応領域
第9回 和声二元論が成り立たない理由
第10回 長調と短調の二極化から旋調性へ
第11回 負の音を作ってみよう
最終回 まとめ~ドミナントモーションから動和音へ
(※進捗によっては、若干のテーマ変更の可能性もございます。ご了承下さい。)
第 5 回 和声単位という和声構築法
一般にポピュラー/ジャズ和声は、自然倍音列や慣習的作法を根拠に三度堆積で和音を作 っていきます。それに対して、四度和音やクラスターなどは「三度堆積法ではない和音の 作り方」によって作られている、とされてきました。 不定調性論はこのばらばらの手法の統一を図りました。これによりトリッキーな響きを同 じ手法で作ることができるようになります。つまりこの作業は、三度堆積法が作られた時 代には存在しなかったブルースやジャズ、現代音楽等の和音を同一システムに取り込むた めの和声構成法を一から作りなおす、という作業です。 まず前回の数理親和音モデル(以下、親和音モデル)を用います。図 1 をご覧ください。
図1
図1 このモデルは「一音に親和する」と不定調性論として定めた範囲が書かれています。まず
基音 c の上方オクターブレンジ 3(図 1 の最左列)の構成音は下記の通りです。 c e g b♭(c)
この発生状態をさらに下記図2のように理解します。
図2
図2
まず基音がレンジ 2 で c-g-c とオクターブ間を分断します。この c-g 間を「上方完全五度
領域」、g-c 間を「上方完全四度領域」という「領域」という仮想フィールドにします。 次にレンジ 3 では、e と b♭によってさらに細分されます。こうして二つの領域にできた 二つの三和音をそれぞれ c,e,g=Cu5(「シーユーファイブ」と読む)、g,b♭,c=Cu4(「シー ユーフォー」と読む)として確立します。「u」は upper=上方、の略です。
Cu5 は一般的な長三和音です。そして Cu4 は歴史から忘れられたもう一つの長三和音です。 コードネームシステムからみたら、C7omit3 のような構成音です。でもオクターブレンジ による基音のオクターブステップという考え方からすると「範囲の狭まった長三和音」と
いえます。 完全五度と完全四度は、オクターブレンジでは共に基音の振動数差で発生しました。それ ぞれの領域が異なったことで見栄えが違うだけで、数差上は、 Cu5=Cu4(“完全五度の長三和音”と、“完全四度の長三和音”の関係) なのです。このあたりについての説明をしっかりと設けなければならないのですが、今回 は割愛し、教材に委ねます。 これにより「二つの領域のそれぞれの主要和音」ができました。この c,e,g という集合が 一音を中心にして生まれる領域は、基音 c の上方完全五度領域だけです。
そして、このCu5 を完全五度領域の「和声単位」と定め、同様に Cu4 という集合も和声単位に定めます。 次に下方の領域も見ていきます。同様に基音 c を中心にして生み出される下方領域には c-a♭-f-d-c という分割が見られます。これらも下方完全五度領域、下方完全四度領域と し、上方領域と同じ発想で領域化し、和声単位化します。 c,a♭,f=Cl5(「シーエルファイブ」と読む) f,d,c=Cl4(「シーエルフォー」と読む)※「l」=lower、下方の略です。
一つの基音からそれぞれ四つの和声単位、Cu5,Cu4,Cl5,Cl4 が作られました。これらを 「基本和声単位」とします。
“あれ、Cl5 って Fm じゃないの?”と思われるかもしれません。しかし Fm は f が中心に なった概念を持つ音楽的和音であり、ここでの Cl5 は「上方に c を持つ基音集合」である、 という論理からまだ外に出ていません。つまりまだ音楽的和音 Fm ではなく、物理現象の 集合にとどまっています。これが音楽的素材になるのは、もう少し先です。
不定調性論では、この Cl5 という和音から Fm を作り出す考え方として「上方性和声構築 法」と「下方性和声構築法」という二つの考え方で統合しています。簡単に言うと、コー ドネームで表記される一つのコードの構成音はどの音も音楽的な中心音になりうる、とい う考え方です。
つまり C△も c,e,g それぞれが音楽的中心となる和音を作ることができる、とすれば、 Cl5 の c,a♭,f のどの音を中心にしても良いわけで、ここで初めて Fm が作られます。 たとえば、
Em |C△/E | Em |C△/E |
という進行における C△/E は機能和声では E マイナーキーの VI♭M7 ですから、C/E⇒ Em(+5)のように響いていることになります。これは e を中心にした C△の例です。 Fm というのは、Cl5 という集合が、たとえば、
C△ |Cl5/F |C△ |
という進行の時に、Cl5/F⇒Fm と解釈した方が、聴き親しんだサウンドとなってしまう慣 習があるために、この Cl5/F⇒Fm とする、という志向の流れを作るわけです。
これで基音を仮に X とすると、Xu5、Xu4、Xl5、Xl4 という四種類の和声単位ができます。 あとはこれらを組み合わせて出来る和音を分析します。たとえば、
CM7 ⇒Cu5+Bl5 という和声単位の組み合わせ
C7 ⇒Cu5+Cu4 という和声単位の組み合わせ
Cm7 ⇒Gl5+E♭u5 という和声単位の組み合わせ
Cm7(♭5) ⇒ B♭l5+B♭l4 という和声単位の組み合わせ
様々な和声単位の組み合わせで音楽的和音を作ることができます。これによって三度堆積法から逸脱することができ、調的システムとは異なる手法で和音を構築することができま す。
その他の和音も和声単位の組み合わせ、またはその方法を応用した考え方で作ることがで きます。
Cdim=基音 c の裏面、側面領域の合成によって
Cdim7=基音 c の全基音領域合成によって Csus4=Cul3、基音cの上下第三倍音の合成として、基音の特定が可能
C7sus4=Cul3+Cu4
Caug=Cul5、基音cの上下第五倍音の合成として、基音の特定が可能
C7(#5)=Cul5+Cu4
C7(♭5)=Cu4+基音の裏面領域音追加によって
CmM7=Gl5+Bl5
C6=Cu5+El5
Cm6=Gl5+Gl4
Cadd9=Cu5+Gul3
Cmadd9=Gl5+Gul3…etc
c,f,b♭,e♭,a♭の四度和音=Cl5+B♭l4 または十二音連関表から(連載第 6 回) c,d,e,f#の二度和音=十二音連関表から(連載第 6 回) c,c#,d,d#のクラスター=十二音連関表から(連載第 6 回) 同じ和音でも領域合成の方法は複数あり、教材では様々な和声単位の合成による作成のバ リエーションを研究材料として提示しています。
※連載第 6 回も参照ください。
ではこのような関係は、どうまとめることができるのでしょうか。次回は十二音連関表と和声の分子構造についてです。
今回は以上です。 ありがとうございました。 ご質問、ご感想等はこちらまで。
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