本連載の予定
第4回 数理親和音モデル
第5回 和声単位という和声構築法
第6回 和声の分子構造
第7回 増四度環と裏領域
第8回 調という幽霊を発生させる和声の反応領域
第9回 和声二元論が成り立たない理由
第10回 長調と短調の二極化から旋調性へ
11回 負の音を作ってみよう
最終回 まとめ~ドミナントモーションから動和音へ
(※進捗によっては、若干のテーマ変更の可能性もございます。ご了承下さい。)
11回 負の音を作ってみよう
皆さん、こんにちは。
今回のテーマ、いよいよ SF かよ、という感じですが、これも楽曲分析学習を詳細に行う ための手段の一つです。誤解を承知でサクッと書いてみます。
図1
図 1 を見てください。これは連載第 7 回でも提示した「増四度環」です。上行する音階と、 下行する音階が c と f#で交差していることを示していました。この二つの世界をここで は二種類の音階と考えます。
そして、上行する音階音を「正の音」、下行する音階音を「負の音」といったん区分けし ます。つまり旋律音が、このどちらかに属する、ということになります。
※c や f#も同様に正負に分けられるものとします。
この対称性だけでもいろいろな関連性を作ることができて面白いのですが(詳しくは教材 にて)、ここでは割愛し先に進めます。譜例1をご覧ください。
譜例 1
この旋律感、どのように皆さんは感じますか?
歌詞との絡みを考えれば、なんとも凹むメロディですね。今度は譜例 2 のメロディを弾い てみてください。
譜例 2
こちらはいかがでしょう。♭が二つ付くことによって、切実さが増します。笑。
譜例 1 の G7 は、C メジャーキーですが、譜例 2 の G7 は C マイナーキーと表現することも できます。では次の譜例 3 はどうでしょう。
譜例 3
これは更に切実です。最後の CmM7 における M7th 音が、今後一週間ぐらいはお小遣いが入る予定が無いことを示しているように感じられます。
今回テーマにするのは、この最後の b 音=シの音、「なーい」の音です。
全部同じ b 音で終わっています。
しかし音楽的意味は様々でしょう。譜例 1 なら「あっけらかんと弾いて」などと指示があ るかもしれません。スラーにして弾いたり、人によっては軽くスタッカートで飄々とした 感じに弾くかもしれません。また譜例 3 なら「G7 の三拍目から、弱々しく rit して」な どと指示があるかもしれません。
このメロディを midi でベタ打ちすれば、同じベロシティ値(強さ)、同じゲートタイム 値(長さ)で表現されてしまうでしょう。
こうした音楽の表情を少しでも midi の数値データで生かそうと思えば、その音がどんな 表情を持ち、どんな役割を担っているのかを打ち込みする人がどれだけ想像できるかにか かっています。
そこで改めて譜例 1,2 の b 音と、譜例 3 の b 音を異なるものと考えてみてください。和声 の雰囲気が CM7 と CmM7 ではまるで違うわけですから、そこに乗る b 音の表情も変わって きます。次の図 2 をご覧ください。
図2
増四度環を用いれば、二種類の CM7 と CmM7 を上下の領域で作ることができます。これを
赤いほうで表現すると、+CM7、+CmM7 で、青いほうで表現すると、-CM7、-CmM7 とします。 ※教材ではポジティブコードとネガティブコードと表現し学習上の活用法を提示しますが、 ここでは符号による表現に留めます。
CM7 は本来明るい和音ですが、こうしたネガティブな歌詞(?)の場合、いつもの CM7 のよ うに明るく弾かない、という attention を含める意味で「-CM7」または b 音の上に負の記 号をつけてネガティブな意味を持つ和音である、と分析するわけです。 和音全体が持つ雰囲気を、ご自身の音楽的クオリアと照合し、ポジティブなものなら上行 領域の+CM7、ネガティブな感覚を覚えるなら下行領域の-CM7 と振り分けます(「+」の記 号表記は通常省略します)。
また通常 CmM7 のようなコードは、ネガティブな状況で使われるはずなので、基本は負の 記号が付く、-CmM7 が通常でしょうが、ポジティブな例も作れる配慮がされているわけで す。 さらに教材では、こうした上下の対称性を、写像のような関数的素材に位置付け、「ベル トチェンジ」や「コロイド音」という発想で、代理和音の考え方を発展させます。
このような雰囲気分け作業は、楽曲分析の学習時期に一時行えば良いと思います。 こうしたコード進行が持つ雰囲気を理論的先入観にとらわれず表現できる手法を身につけておけば、ジャズ・フュージョン楽曲等が時折持つ抽象的進行感にも感情的変化の流れをあてはめ、オリジナルな分析ができると思います。
その和声があなたに与える表情に符号をつけてみる、それだけの作業ですが、コードネームの先入観を解放し、調的理解とは異なる機能性を見出し、あなた自身の音楽理解のスタイル構築を積極的に行うことで、内的な理解と方法論の確立を促進することができると思います。
今回は以上です。 ありがとうございました。 ご質問、ご感想等はこちらまで。
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