“なのに”親しみがある現代曲の演奏会@ジュリアード・スクール|リスナーズのクラシックエッセイ

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音楽を聴く楽しみは、ベートーベンやモーツアルトばかりではないし、昨日今日だって、その作品は毎日プロデュースされている。9/20(土)に聴いた、ニュー・ジュリアード・アンサンブル(the New Juilliard Ensemble)の公演は、20世紀から今までの作品を扱う演奏会で、全員オーディションで選ばれた現役のジュリアードの学生で編成された15から20人のオーケストラが演奏を行う。指揮はこの学校の先生でジョエル・ザックス(Joel Sachs)。現代曲部の責任者だ。彼らの公演は2014年1月に6回聴いて、とても面白かったので今回また行ってみた。

プログラムは、40-80歳代の、ドイツ、イスラエル、イギリス、イタリア人作曲家による4作品で、その性格は、同じコードを複数の楽器が徐々にずらしていく数学的な物や、さまざまな民族音楽の欠片を組み合わせて精神世界を作る物。古典の伝統を受け継いだ精神性と物理的な感覚がうまく組み合わさった物。

そして、まるでひとりの人間の一生を見ているようなドラマティックな情景描写と人間の心理をうまく織り交ぜた物と、それぞれに個性があって、ニューヨーク初演や世界初演と、全て初めて聴く物ばかりだが親しみを持って楽しめた。特に最後に演奏された、イタリア人作曲家のアレッサンドロ・アヌッツィアータ(Alessandro Annunziata)の作品は、おそらく30分以上ある大作だったが、無音を感じさせる、ごく僅かな音の擦れの様な部分から始まり、様々な民族性を持つメロディに、次元の感覚を無くすような錯覚を展開させる進行を組み合わせて構成されていて、凄い意欲を感じた。

これは、この団体が昨年行った彼の作品への取組と洗練された演奏のうれしさに、アレッサンドロが、より規模の大きな編成に作品を書き下ろした様だ。もちろん世界初演。演奏する側も熱意を持って取り組んでいだ。後半疲れて来て必死に食らいついて演奏してる部分も見受けられたが、それだけに聴いていて迫る物があったし、作品の面白さは十分に伝わった。

4曲中、何度かメンバーが入れ替わり、後半になるにつれ演奏の精度が上がっていく。プロの演奏から比較すると学生らしい演奏だと感じる部分もあるが、彼らは初めから、不確定でも彼らの中にゴールが見えて演奏し、確実に近づくために楽器を弾いているから、聴き手を、その作品が持つ世界に近づけてくれる。音が合う合わないの問題ではなく、作品を理解して実現する意識の問題だ。

この点は教育者でもあるジョエルの意識付けはうまい。彼らの演奏をまた聴きたくなった動機のひとつはここにある。曲を知っているかどうかという知識の問題ではなくて、体験した音楽の世界が自分の理性とどう繋り、そこにいて心地いいと感じられるか。彼らの演奏は、大人がやるような遠い憧れを無理やり押し付ける事は無く、常にシンプルで具体的で柔軟なアンサンブルで、聴き手をその作品の世界に連れて行ってくれるから面白い。

作曲家は、人々の心の奥に眠っている感覚に手を伸ばして、ほんの小さな心の欠片を集め、組み合わせて、繋げて、それにまだ気が付けない人間が解るように音楽にする。今回のプログラムは中堅から80歳を迎えたイギリス人作曲家のハリソン・バートウィッスル(Harrison Birtwistle)までを一度に聴くことが出来た。それぞれが感覚を音楽にする方法が違って、そのことをより具体的に理解することが出来た。

そして、ジョエルは作品のそれぞれが持つ世界を当たり前に再現してしまう。古典とは違う新しさを無理に押し出す主張がないから、ごく自然に演奏を聴くことが出来る。例えば、プロのモダンオーケストラが同じ曲をやると、音の感触に古典と比較された新しさを感じる。

そして、その後、古典の演奏も聴けてしまう。しかし、ジョエルの演奏は、ごく最近作られた物ですら、馴染んで聴こえるから親しみを持ってしまう。そして、古典の音型が急に古く感じてしまうから、その直後にモーツアルトやベートーベンは聴けない。そこが彼の凄い所だ。だから今回もまた聴きたくなってしまった。しかも、彼がジュリアードで行う公演は全て無料。それにも拘わらず、お客さんの数は割と少なかったが、中には20-30代で熱心に楽しむ様子も見受けられた。

彼らは毎年1月に、フォーカス(the FOCUS! )という一つのテーマに焦点を充てた連続演奏会を開催している。ちなみに前回は戦後のソビエト時代の作曲家でアルフレード・シュニトケ(Alfred Garyevich Schnittke)とその友人ら、ソフィア・グバイドゥーリナ(Sofia Gubaidulina)、アルヴォ・ペルト(Arvo Pärt)、ギヤ・カンチェリ(Giya Kancheli)、ヴァレンティン・シルヴェストロフ(Valentin Silvestrov)の作品をソロからオーケストラまでアンサンブルの形態も全く違うさまざまな曲を織り交ぜ6回の連続公演が行われた。

ジュリアードスクールには彼らのオリジナルの楽譜がたくさんあって、学生たちはそのオリジナル符から作品を自分の物に出来るから、演奏家としてとっても生涯の財産となる。

そして、次回の2015年フォーカスで焦点を当てるテーマは「Nippon 日本 Japanese Music Since 1945」細川俊夫西村朗などが紹介されるらしい。その6回の公演の中で、日本人の作品に眠るセンスも気になるし、それをジュリアードの学生たちがどう解釈し、ジョエルはどう組み立て聴衆に提案してくれるか大変楽しみだ。

 

※記事はhttp://thelisteners.infoから寄稿していただきました。THE Listeners様、ありがとうございました。 

 

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