第10回 「長調と短調の二極化から旋調性へ」音楽のクオリア~不定調性論の挑戦~


20140415

本連載の予定

第0回 序論(上)(下)

第1回 和声の存在を再確認する

第2回 自然倍音の数理の不思議

第3回 下方倍音列の活用

第4回 数理親和音モデル
第5回 和声単位という和声構築法
第6回 和声の分子構造
第7回 増四度環と裏領域
第8回 調という幽霊を発生させる和声の反応領域
第9回 和声二元論が成り立たない理由
第10回 長調と短調の二極化から旋調性へ
11回 負の音を作ってみよう
最終回 まとめ~ドミナントモーションから動和音へ

(※進捗によっては、若干のテーマ変更の可能性もございます。ご了承下さい。)

第 10 回 長調と短調の二極化から旋調性へ

皆さん、こんにちは。

今回は、現代の調性の機微について考えてみましょう。 長調の曲というと、明るく朗朗として、ほがらかな印象を持つ曲想を連想されるでしょう。 そして短調の曲、というと、暗く陰鬱で、寂しげで悲しげな曲、というイメージを持たれ ることでしょう。

しかしながら、曲想というのは、一様ではありません。 

例えばザ・ビートルズの『Let It Be』はどうでしょう。明るい曲でしょうか、暗い曲で しょうか?キーでいえば、C メジャーとその平行短調の A マイナーを行き来している曲で すが、A マイナーキーの曲で使われるべき E7、すなわち短調の V7 が使われていないため、 伝統的な短調の「暗さ」は無い、と感じると思います。

また『東京音頭』(作詞;西條八十 作曲;中山晋平)はどうでしょう。メロディはあきら かに短調的ですが、リズムや歌詞の感じによって、決して暗い曲だとは私は思いません。

音楽は一曲一曲異なる表情があります。それらの微細な違いを表現していたら教科書が何冊あっても足りません。そこでメロディと和声の形態分析から長調と短調という分類をすることが音楽理論の役割とされていますが、ここではあえてその概念のありようから考えてみましょう。

マイルス・デイビスのアルバム『Kind of Blue』<1959>に収録された『So What』は二つ のドリアンモード(I-II-III♭-IV-V-VI-VII♭の構成音階)によってできている、とされて います。確かにそのテーマの雰囲気は、長調ではないし、また短調とも言い難く、それは 「ドリアン調」とでも表現すれば良いでしょうか。

ブルースはどうでしょう。ブルースというと、陰気くさい曲をイメージされるでしょう か?それとも陽気な曲をイメージするでしょうか?もちろんブルースにもメジャー、マイ ナーがありますが、やはりブルースは「ブルース調」というのが通じやすいですよね。

または「B.B.キング調」とか表現したりするのはないでしょうか。 カントリー曲には、カラっとした雰囲気が思い起こされますし、ダブ・ステップといえば、 DJ 系の楽器を用いた独自のうねるグルーヴを思い起こされるかもしれません。

この辺り が表題にもなっています「音楽のクオリア」であり、皆さんの想像と創造の源だと思いま す。 また、上記に書いた楽想の印象は、私個人が感じたものですから、共感できる人、できな い人が当然いらっしゃると思います。

オーケストラ楽器で何もかも演奏できた時代を経て、現代の音楽は、電気楽器による可能性の増大が、新たなジャンルが生み出し、和声進行や旋律で識別できる調性以上にその「ジャンルの調べ」が特徴的となりました。

 
そしてそのジャンルそのものも交錯し、ジャンルでくくれない音楽も確かに存在します。 不定調性論では、現代のこうした音楽の情景に沿い、長調短調の入り組んだ音楽の調べをもう少し細かく分析するための考え方の素材の一つとして「旋調性」という用語を用いています。

これは、複雑な和声感を持つ部分のある曲や、和声の無い部分がある曲、小節毎の転調を 引き起こす bop 的な II-V 進行を持つ曲において用います。

M-Bank のブログでもそれらの進行を持つ楽曲を 「不定調性的楽曲」として取り扱っています。 また、より現代のジャズの曲想が持つ独自性や、ハイブリッドなポピュラー楽曲に見られ る激しい転調を有する曲などについても、「激しく転調しています」という機能和声的分 析に加え、その転調がどのような雰囲気を持ち、どのようなイメージを分析者に与え、そ れを実際に自分の音楽にどう解釈し咀嚼して活用していくか、というところまで検分して いくためのアイデアをまとめて教材に提示しています。

スティービー・ワンダーの曲を例にとってもう少し具体的に述べてみます。※詳しくは M-Bank ブログをご覧ください。

『Overjoyed』や『Summer Soft』のように転調進行そのものがコード進行のレベルになっ て変化していく旋調性、『Living For The City』などの三度抜きコードパターンによる 平行ハーモニーのメロディ付け、『Sir Duke』のブリッジ部分の長三和音による半音移動 による省略型調的拡大の表現、『For Once In My Life』や『Golden Lady』、『Don’t You Worry ‘Bout A Thing』等に見られる“ハイパーラインクリシェ”の応用発展から、 それらをコード進行全体に施した『Kiss Lonely Good-bye』のようなまさしく旋調的な楽 曲、『As If You Read My Mind』『Too High』等のテンションや変化和音の雰囲気を用い てフラットなメロディを作る作品などを見ていると、この一人の天才ミュージシャンの手 によって「調」の概念が拡張されて表現されているのが分かります。

しかしながら、こうした技法が十分作曲技法に還元されておらず、音楽を学ぶ誰もが活用できる手法に落とし込まれてないのではないか、と感じています。 なぜ手法化できないか、というと、機能和声理論がそれらの手法を過去の作品に還元して理論化することが難しいからだと私は考えています。

 
しかしもしこうした手法が専門学校や音楽大学で少しだけでも、体系的手法として、教科書にまとめられていれば、今後デビューする作曲家やアーティストにとってコンパクトに作曲のバリエーションが増えるのではないかとも思います。 人が持つ個々の感性、独自な視点、は誰の手によっても批判されるべきではないと思います。

「熱い曲」
「感動する曲」
「落ち着く曲」
「綺麗な曲」
「泣ける曲」 はみなさんにとってどのような曲ですか?

「熱い曲調」「綺麗な曲調」という認識を、理論に頼らず、自分の感じたままの意見を押し出してみてください。そしてその雰囲気、理解、感覚が、その楽曲のどの部分から発せられたものなのかを特定し、なぜその部分がそのような情感を発しているのかをしっかり自分の視点で理解してみます。もちろんこうしたことについて、先生方や、音楽人と一緒に考えることは更に有益です。

不定調性論では、長短調の概念を発展させた「不定長調」「不定短調」「内定調性」といった拡大した音楽性を見極める尺度を設けました。 長調、短調という考え方は素晴らしい発明だと思います。その結果である現代の音楽の無限のバリエーションをもう少し分けて考える手法があれば、また学習時のイマジネーションの飛び方も違うのではないでしょうか。

私自身もっともっと研究して追求していかなければいけませんが、ここに書いたことについて、もし皆さんの心に掛かる点が一つでもあれば、大変嬉しく思います。

今回は以上です。 ありがとうございました。 ご質問、ご感想等はこちらまで。

 


 terauchikatsuhisa

寺内克久  Katsuhisa Terauchi
大学卒業後専門学校にてジャズ理論を学びながら作曲/演奏活動、作曲家としてデビュー後大手音楽専門校へ就職。その後music school M-Bank発足と同時に、経営/運営スタッフとして、またギター・ウクレレ・ベース・作曲・DTMの講師として活動。最先端のポピュラー/ジャズ和声学を目指し『不定調性論』を提唱し、レッスンでの活用、各方面での研究発表を行いながら、実践的で個性を活かす音楽レッスンカリキュラムのコンサルタントとしても活躍中。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム協会会員。毎週250kmを乗る、ロードバイカー。M-Bankの通信講座ブログ , 不定調性教材のお申し込みはこちらから

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