第8回 「調という幽霊を発生させる和声の反応領域」音楽のクオリア~不定調性論の挑戦~

20140415

本連載の予定

第0回 序論(上)(下)

第1回 和声の存在を再確認する

第2回 自然倍音の数理の不思議

第3回 下方倍音列の活用

第4回 数理親和音モデル
第5回 和声単位という和声構築法
第6回 和声の分子構造
第7回 増四度環と裏領域
第8回 調という幽霊を発生させる和声の反応領域
第9回 和声二元論が成り立たない理由
第10回 長調と短調の二極化から旋調性へ
11回 負の音を作ってみよう
最終回 まとめ~ドミナントモーションから動和音へ

(※進捗によっては、若干のテーマ変更の可能性もございます。ご了承下さい。)

 

第8回 調という幽霊を発生させる和声の反応領域

皆さん、こんにちは。
今回は、調の存在を不定調性論のこれまでの発想法から作り出してみましょう。

まず譜例 1 を見てください。

譜例 1

1

コード表記は、C メジャーキーのダイアトニック進行ですが、メロディが、

C リディアン#9 |D フリジアン |E ドリアン |F リディアン m7 |C ミクソリディアン |

という多調解釈で変化音を多用して作ってあるため、奇っ怪なものになっています。 調的システムは、単一のモードが中心となり主和音を持つことで成り立っています。 単一のモードとは、C メジャーキーであれば、ドレミファソラシド(メジャースケール=C アイオニアン)です。次に譜例 2 を見てください。

譜例 2

2

 

これはどうでしょう。変化音はありませんが、どうもメロディになじみが感じられません。 これは和音に共鳴しづらい音を長い音価(八分音符以上)で用いているからですね。こう考 えると、調性音楽を作る、というのも意外と難しいものです。では次の譜例 3 はどうで しょう。

譜例 3

3

こちらも変化音が八分音符以上で使用されています。それでも要所のメロディの感じから、 なんとなく C メジャーキーがあるようにも感じます。

どのような音楽を作ったとしても、個人が「それをよし」とするからこそ個性的な音楽表 現が構築されるのが音楽の不思議な魅力です。自分自身の音楽的信条、感じたこと=音楽 的クオリアを第一に考えるからだと思います。

このあいまいな「調」の存在について、改めて考えてみましょう。 まず「コード構成音以外の音を旋律で用いない」というルールを作ることにしましょう。 すると譜例 4 のような旋律にならざるをえません。

譜例 4

4

シンプルな旋律です。しかしこれだけでは、単にコードが連鎖されているだけで、「調の 存在を示している」とは言えません。調の存在とは、連鎖するコードが何らかの一貫した つながりによって連鎖している必要があるからです。

そこで、その隠れた「一貫したつながり」を作る存在として「主和音」を背景においてみ ましょう。この発想は、一つの音にどの領域音を反応させるか、という不定調性論の「反 応領域」の考え方からきています(連載第四回参照)。   

C△(C△) | Dm(C△) | Em(C△) | F△(C△) |

ここでは分かりやすくテンション表記の代わりに主和音をコードネームの脇に書いてみま した。これでこの四小節全体の背後に C△という和音が存在するものとします。 これにより使用可能音が拡張します。
C△⇒c,e,g
Dm(C△)⇒d,e,f,g,a,c
Em(C△)⇒e,g,b,c
F△(C△)⇒f,g,a,c,e
これらを用いて譜例 5 を作成しました。

譜例 5

5
これにより、C△という背景がある四つの小節の連なりが出来上がりました。 この作業から先は、機能和声論となるか、不定調性論になるか分かれることになります。 機能和声論における調は主要三和音でできていますから、C△、F△、G△を反応させ、C メジャースケールを背後に作り上げる必要があります。

では「調を定めない」と銘打った不定調性論の場合はどういう手法となるのでしょう。 次のコード進行を弾いてみてください。

CM7 |E♭mM7 |Gm7(♭5) |DM7 😐

この不定調性進行は主和音が定まりません。そうした場合に定める中心的和音を不定調性 論で「センターコード」と言います(自由に設定できます)。

その他のコードを「アラウン ドコード」といいます。ここではセンターコードを CM7 とし、各和音に CM7 を反応させます。

CM7(CM7) |E♭mM7(CM7) |Gm7(♭5)(CM7) |DM7(CM7) 😐

すると使用音は、
CM7⇒c,e,g,b
E♭mM7(CM7)⇒e♭,e,g,b♭b,c,d
Gm7(♭5)(CM7) ⇒g,b♭,b,c,d♭,e,f
DM7(CM7) ⇒d,e,f#,g,a,b,c,c#
となります。

これで譜例 6 のようなメロディを作ってみます。

譜例 6

6

もちろん音楽的クオリアで自在にメロディを作れる人は、いつも通りコードの響きだけか ら作って頂ければ構いません。

理論だけで述べれば、
CM7=C アイオニアン
E♭mM7=E♭ドリアン M7=E♭メロディックマイナースケール
Gm7(♭5)=G ロクリアン
DM7=D アイオニアン
(※他のモードの解釈、使用も可能です。)

というようにジャズ理論では考えるかもしれませんが、これはあくまでコードスケールを 想定しただけで、インプロヴィゼーションの際のガイドラインに過ぎません。「調」の破壊の歴史は、新たな概念の創造の歴史だともいえます。

それはコードネームシステムの発明によって、譜例 6 のような音楽の設計図ができるよう になると、使用可能な和声を指定することによって複調的な構造が存在することを事前に 明示できるようになりました。

この反応領域による拡張された調的世界を構築するのが不定調性論の大きなテーマです。

詳細については、教材をご覧いただきたいのですが、この問題を突き詰めていくと、大き な壁が立ちはだかります。次のコード進行を見てください。

Dm7 |G7(♭9,♭13) |CM7 |

ここに現れる G7(♭9,♭13)は C メジャースケールのコードではないにもかかわらず、こ のコード進行が C メジャーキーであることを皆さんは認知すると思います。 ジャズを演奏している人なら“この G7 では転調が起きている”などといちいち考えない でしょう。最終的に CM7 が来るために、この進行が C メジャーキーであることがわかりま す。

この V-I というケーデンスをどのように拡張した調性の世界観で理解するか、この問題点 についてここで明示し、本題を締めたいと思います。 ドミナントモーションの問題は、連載最終回で明示します。

 

今回は以上です。 ありがとうございました。 ご質問、ご感想等はこちらまで。

 


 terauchikatsuhisa

寺内克久  Katsuhisa Terauchi
 
大学卒業後専門学校にてジャズ理論を学びながら作曲/演奏活動、作曲家としてデビュー後大手音楽専門校へ就職。その後music school M-Bank発足と同時に、経営/運営スタッフとして、またギター・ウクレレ・ベース・作曲・DTMの講師として活動。
最先端のポピュラー/ジャズ和声学を目指し『不定調性論』を提唱し、レッスンでの活用、各方面での研究発表を行いながら、実践的で個性を活かす音楽レッスンカリキュラムのコンサルタントとしても活躍中。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム協会会員。毎週250kmを乗る、ロードバイカー。M-Bankの通信講座ブログ , 不定調性教材のお申し込みはこちらから

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