【ニュース】音楽家の脳

 

 

以前にジャズのアドリブ中に脳内ではどのような事が起きているかを科学的に分析するというニュースを取り上げました。(Is Music a Language?)
今回はその実験を行ったCharles Limbさんがそれ以前に行った実験についてのニュースです。
記事自体は古いものですが、内容はとても面白いのでご紹介します。

 

The Musician’s Brain
http://www.psmag.com/navigation/nature-and-technology/the-musician-s-brain-4698/

 

音楽が精神を活性化させるということは今ではよく知られていることです。
Elizabeth Hellmuth Margulis(アーカンソー大学の音楽の助教授)であるCharles Limb(医学校とピーボディーインスティチュートで勤めるジョン・ホプキンス大学の教職員)が音楽家の脳をスキャンして、初めてこの現象を研究しました。

 

LimbとMargulisは別々の脳の研究を行い、Margulisの研究結果では音楽教育を十分に受けると脳の機能が変化するということが分かりました。Limbは演奏中にジャズプレイヤーがどのように創造力像力が高まっている状態になるかを研究しました。どちらの研究も、一部の才能のある人にしかないと思われている、この不思議な状態を解き明かす手がかりになっています。

 

Margulisの研究はノースウェスタン大学で行われ、彼女は「創造力や才能ということに関しては、未だに19世紀の概念から進歩していません。音楽の才能の謎を解き明かすのはとても大きなことです。」と述べています。
音楽家と音楽教育を受けていない人とでは脳のネットワークが異なるということを示す研究がいくつも行われてきました。それは遺伝的なものなのか、それとも長期間に渡り練習を続けたからなのでしょうか?

 

この実験では、12歳から楽器を続けているバイオリン奏者9人とフルート奏者7人に協力をしてもらい、MRIの中でよく似たバッハのバイオリンのための曲と、フルートのための曲を聞いてもらいました。

どちらの音楽家もそれぞれの楽器の曲を聞いている時の脳の状態がよく似ていました。楽器を長い間続けることで、脳の中に特殊なネットワークができ、運動野と視覚連合野の活動といった、音楽をするのに必要な脳機能が高まったと考えられます。
古いジョークに「カーネギーホールにはどうやって行くの?」「練習に練習を重ねるのさ。」というのがありますが、今回の実験ではこれが証明されたのです。

 

音楽家を音楽家たらしめるものは素質というより訓練なのだというのが有力になりました。
音楽家は普通の人とは脳が変わっている異色な存在で、音楽は専門分野だと言われることもあります。しかし、これは誰もが体験していることで、特別なことではないのです。

 

その音楽において、即興演奏より不思議なものはないでしょう。
ジャズプレイヤーはよく「アドリブは不思議なもので、頭で考えるよりも先に楽器から音が出ている」と言います。しかし、ワシントンDCの国立保健研究機構で行われたLimbの研究で、即興演奏もまた脳の特殊な働きにすぎないということが初めて明らかになりました。

 

ある日彼は国立保健研究機構の言語分野のトップであるAllen Braunと、即興演奏中の脳がどうなっているかMRIで分析したいと熱心に話していたそうです。その研究をする事自体に創造力が必要で、脳を計測しながら演奏してもらう方法を考えるのに2年かかりました。
「非常に多くの制限があり、特に演奏しづらい事が問題でした。肩までMRIの中に入り、頭の周りにはコイルがあり、合わせ鏡で膝の上のキーボードを見るわけです。」と彼は思い返しています。

 

いくら音楽家がバーで酔っ払った客相手に演奏しているとはいえこの状況は過酷ですし、75分もその姿勢を保たなければなりませんが、それでもLimbは協力してくれる音楽家を難なく見つけました。

Limbは「被験者はとても熱心で、ジャズミュージシャンとは求心的な人たちなのです。ジャムセッション中に脳がどのようになっているか分かりました。」と述べています。

 

まず、ハ長調音階を基本としたとても簡単なアドリブをし、次にそれより複雑なブルースのメロディーをアドリブしてもらいました。MRIでは演奏内容の難易度に関係なく脳の同じ分野が活性化していたことが分かりました。脳の特殊な働きはアドリブによって引き起こされていたのです。
さらに、脳の自己評価を司る部分は全く働いておらず、内側前頭皮質付近*が活性化していました。

*)自身の内的ゴールに従って、考えや行動を編成することにあると考えられる脳の部分。

 

脳内で活性化と沈静化が同時に起こるというのは、なかなかないことです。

目標に向かって何かをするといった内生的なことをする際や、自分自身について話すときに前頭皮質は活性化します。即興演奏ではまさに自分の音楽の物語を話しているのです。

そして本当に面白いのは、脳内で行動を抑制する部分が沈静化しているということです。それによって、思いつくものを分析したりせずそのまま表現できるそうです。

 

LimbもBraunも今回の結果を拡大解釈をしないで欲しいと語っており、「今回の実験では創造性自体を見ているわけではありません。それについてはまだ研究の余地が残っています。今回の実験では創造性と自発的な行動の一面を研究しただけなのです。」と述べています。

 

今までは創造性というのは結局人間の進化の根本にあるもので、科学が踏み込んではいけない領域だと考えられてきましたが、この研究では脳の特定の活動によって、その一部が明らかになりました。才能を伸ばすこと(練習)は創造力には欠かせないということも分かりました。

 

Limbは「私にはどうやって脳がアドリブ中の状態になるかは分かりませんが、アイディを”流れ出るまま”にする事が重要だと思います。そのためアマチュアの人は、音をどう演奏するかや楽器の扱いで手一杯なので、その状態までいけないのです。」と述べています。

 

何かをマスターすると、それは意識しなくともできるようになります。
あとはアイディアに集中するだけでいいのです。

 

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鈴木元(すずきはじめ)

http://hajime-suzuki.com

洗足学園音楽大学ジャズコース入学を機にコントラバスを始める。 藤原清登氏、佐藤ハチ恭彦氏にコントラバスを師事。

大学入学時より演奏活動を開始し、様々な場で活動を行う。 大学ではビッグバンドなども経験し、第42回山野ビッグバンドコンテストで5位入賞。2011年Taipei International Jazz festivalをはじめ国内外のジャズフェスティバルにも出場。

洗足学園音楽大学で優秀演奏者賞を獲得し、同大学を首席で卒業。

 

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