【対談 その3】「インターネットはものさしをなくしていく」寺内克久(不定調性論)

taidan

音楽理論対談(3)「音楽理論と社会金子将昭×寺内克久

 

対談「音楽理論と社会」(2)

対談「音楽理論と社会」(1)

 

金子:ウェブの発達で多様性が認められるようになってきたという話ですが、僕も同じ様に感じています。だからこそまわりの価値観に左右されない一個人の価値観にユーザーは面白がってくれるような状況ができていると思っています。そして情報革命であるこのインターネットの役割の一つに「ものさしをなくしていく」という事があると考えています。

 

寺内:なるほど、金子さん、やっぱり大きな尺度で見られる方ですね、その辺感心してしまいます。不定調性論で言えば、それはきっと禁則打破の手法の確立なんですが、やっぱりそのへんの敷居外しの方法はこうした情報化社会の何でも有りを綺麗に分別する構造に影響を受けてるかもしれないなあ。

 

金子:僕は元々ものすごい小さい尺度で物事をみるタイプなんですよ、しかも音楽のみにコミットして笑。それは良い面があって個人的価値観や幸福度が増えるんです。ただその一方で内向的に向かってしまうんです。世界が過去に国境を作ったように自分という境界線を引いてしまうんです。良い意味でも悪い意味でも。

シェアがキーワー ドになるこの時代に、僕は僕なりに音楽と社会をつなげようと考えていて、それをするには尺度をものすごく広めれば良い、という結論にいたりました。もちろんコミットして見ていた視点は非常に役にも立っています。しかし不定調性論にもそういった視点があるのはすごいですね。

 

寺内:渡辺貞夫さんの「ジャズスタディ」以降の時代の音楽が持ってきた価値論に切り込もう!なんて大それた目標を持ったこともあったので、結構時代論には敏感にならざるを得ませんね。

 

金子:そういった切り込むチャレンジは個人的にすごく好きです。そして切り込むようなものをもってきた革新みたいなものもやはり好きですね。そうやって時代が変化していきますし。

先ほどの話に戻ると「ものさしがなくなる」と いうのは、良いものを自動的に提供される時代ではなく自分の価値観で好きを見つけるようになるということです。 今までなら情報にアクセスする場合は、この世の中で多くの人 に受け入れられるだろう「ものさし」を新聞社・出版社、大企業のレーベル、テレビがメディアとして介し、「これが良い物ですよ」と教えてもらっていました。そこにインターネットというチャレンジャーが切り込んできて膨大な情報から自らが選択するようになったということです。

 

寺内:それ、インターネットが出る前の世代としては、良く分かります。何かで聞いたことがあります。現代人が一日で得る情報は、産業革命時代に70年生きた人が一生で得る情報量と同じなんだとか。全部良いものですよって言われても受けとりきれない。うまくカテゴリーに分けないと。そこでインターネット登場ですか。

 

金子:もともとARPAがインターネットを作ったときはいくつかの研究所の論文などにアクセス できるようにというのがあったので、ある意味カテゴリーに分けるというのはあっ ているかもしれませんね。そしてカテゴリはさらに細分化されインターネットに情報が集められ、今グーグルで「音楽理論」と検索しても音楽理論を伝統的に教えていた学校のサイトがトップにく る訳ではありませんよね。今までの「ものさし」が情報の一番目ではなくなりユーザーによって一番目の情報が変化してきている、ここから自分の価値観が認められる方向ができてきていると思っています。

 

寺内:最初期のグーグルは何でもかんでもヒットしていて「検索というものはこんな乱雑なものか」って思いましたけど今の精度は本当に凄いと思います。この「不定調性」と云う語も独自の言葉が欲しくてわざわざ作ったんですが、この語で検索したら間違いないですが、知らないと検索出来ない、みたいな策を巡らす必要はあります笑。

 

金子:そのうち頭で感じると検索結果が脳にでたり笑。

 

寺内:そういう発想、金子さんらしいなぁ笑。

 

金子:そういった未来がほんとに来ると思ってますから(笑)。ただインターネットは受動的なものだという議論はありますよね。自分の知っている キーワードの世界から出れないという。ここにはキュレーションやレコメンドなどいったものが考えられますが、解決すべき課題がありそうですね。

ただ、今ここで重要なのは、今後は「絶対的なものさし」の情報が提供される時代が終わりを迎えていて、自 分が良いと思ったものが自分の体験となって今の自分の好きな物になっていくという事です。そうなると一個人というものがインターネット発達 前と比べてより強い価値を持ちクローズアップされると思っています。

 

寺内:そうですね。選ぶ側も自分の意思で決める分、真剣ですしだからこそニコニコ動画からヒットが発掘されたりしたんでしょうね。今は他の仕事しながらでも趣味にプロ顔負けに全力を投ずる環境が整いましたからね。

 

金子:そうですね。それによって裾の尾が広まりプロの多様化を生んだともいえますね。

 

寺内:無料でこれだけの情報や音楽・メディアが手に入るようになって、私は今後どういうものにお金を払うか、その価値観がどこかでどかん!て変わるような気がするんです。貨幣がなくなって物々交換の時代に戻るぐらいの画期的さで(笑)。 「私の歯を治してくれるお医者様で、音楽理論勉強したい方 いませんか?」みたいな問いかけに応えてニーズがマッチする可能性がある時代ですもんね。

 

金子:実際そういった事はすでに行われていて、僕の知り合いはウェブで海外の人と英語を習う代わりに日本語を教えてあげたりしてますね。他には海外送金でも似たようなサービスがあって送金手数料を低くしたりしてますよね。お互いのニーズを合わせてというのは実際ありますし、最近僕はそのようなお願いをする事もあります(笑)。

そうすると「お金とは?」になりますよね。自分の出来る事が相手にとってマッチする ことであれば、「あなたの家でバイオリンを弾くからお返しは食事で」とか「今日から一週間僕の仕事場でBGMでジャズを弾いてくれない?その間は一週間ここに住んで良いよ」のような事がありえますよね。ただそういったニーズの一致が難しく兌換紙幣が生まれた背景はありますが・・笑

 

寺内:でも、悩みますよ、これ本当に10,000円の価値があるのかな、一方では2,000円なのに、みたいなもの。ちょっと例がすぐには出てきませんが。利益構造の工夫ができれば安くなる、というアイデアありきで価格が決まる価値のアンバランスが、新たな貨幣経済を生んだりはしないんでしょうか。

 

金子:新たなというと仮想通貨という事ですか?

 

第4回へ

 


img07

金子将昭  Masaaki Kaneko http://www.masaaki-kaneko.com/

1982年富山県生。洗足学園音楽大学音楽学部ジャズ科ピアノ専攻卒。

大学にギター科で入学後、19歳を目前に経験ゼロのピアノを弾くことを決意し、二年次よりジャズピアノ科へ転専攻。卒業後ピアニストとして自己のバンドなどで活動する。今まで堂本光一、大橋卓弥(スキマスイッチ)、imalu、ジョナサン・カッツ、類家心平、マークトゥリアン、フレッドシモンズとのセッションライブやバンドサポート、ミュージカルなどでピアノを担当。

サポート仕事と和風なジャズを演奏する自己の音楽活動と並行しながら、日本初の音楽理論Webマガジン「サークル」編集長、合同会社 前衛無言禅師(ぜんえいむごんぜんじ) 代表社員、東京音楽理論研究大学主催、音楽共有アプリ「We Compo」の開発、ミュージシャンシェアリング企画「1A1L(ワンエーワンエル)」プロジェクト推進、フリーランス向けの確定申告サイト運営など多岐に渡る。

 

 terauchikatsuhisa
寺内克久  Katsuhisa Terauchi
 
大学卒業後専門学校にてジャズ理論を学びながら作曲/演奏活動、作曲家としてデビュー後大、手音楽専門校へ就職。その後music school M-Bank発足と同時に、経営/運営スタッフとして、またギター・ウクレレ・ベース・作曲・DTMの講師として活動。
 
最先端のポピュラー/ジャズ和声学を目指し『不定調性論』を提唱し、レッスンでの活用、各方面での研究発表を行いながら、実践的で個性を活かす音楽レッスンカリキュラムのコンサルタントとしても活躍中。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム協会会員。毎週250kmを乗る、ロードバイカー。M-Bankの通信講座ブログ , 不定調性教材のお申し込みはこちらから
 
 

1 Trackback / Pingback

  1. 【対談 その2】「これから必要なのはジャズのようにその場を即興で判断すること」寺内克久(不定調性論) – 音楽と社会をつなぐメディア – Mucial (ミューシャル)

Leave a Reply

Your email address will not be published.