【コラム】「Vol.5 ビリーストレイホーン」 川本悠自のROOT NOTE of JAZZ~ジャズの歴史をたどる旅

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ジャズはアメリカで黒人が中心となって作られていた音楽だ。その形成過程のネルギーは奴隷制から始まる黒人差別への反発によるものが非常に大きい。数多くの黒人ミュージシャンがその音楽で、または直接的な行動で黒人差別と戦って来た。華やかなショービジネスの世界がジャズの表の歴史とするならば、黒人差別との戦いは間違いなくジャズの裏の歴史であるだろう。

 

今後しばらく黒人社会とジャズとの関わりを軸に音楽家を紹介していこうと思う。巷では影武者の話でもちきりだが、今回はジャズ史上最も有名で、かつ、ハイ・クォリティな影武者の話。ビリーストレイホーン(1915-1967)

 

ビリーストレイホーンは1915年ビッツバーグ生まれ。幼い頃より音楽に親しみ、高校生の頃にはオーケストラのフルスコアを書く等、すでに才能の片鱗を見せていた。彼の始めの夢はクラシックの作曲家になることであったが、黒人であるという理由で音大の奨学金が得られず、断念している。挫折を味わった彼が夢と可能性を託した音楽がジャズだった。

 

その後彼はエリントンと出会い、有名な共同作業によりそのキャリアを積み上げる一方で、1960年代に盛り上がりを見せた自由公民権運動に身を投じている。1963年に行われた人種差別撤廃のデモ、ワシントン大行進にも参加している。彼はキング牧師と個人的な交友関係を結び、彼の為に”King Fit the Battle ofAlabam’”やミュージカル”My People”を編曲している。エリントンの作風は総じてアフロアメリカンの人種を強く感じさせる作品が多いが、この背景にはストレイホーンのこうした思想の影響があることは否めないだろう。

 

ストレーホーンは1967年に食道ガンで死去するが、彼の死後、エリントンは70歳の誕生日のセレモニーの謝辞の中で、ストレイホーンの”精神の自由のための4か条”というものを紹介している。

曰く

精神の自由のための4ヶ条:
1.憎しみから無条件に解放されること。
2.自己憐憫から解放されること。
3.自分より他人の為になることをやるかも知れないと言う惧れから解放される
こと。
4.自分が仲間より優れていると思うプライドから解放されること。

four articles of moral freedom
1.Freedom from hate, unconditionally,
2.Freedom from self-pity,
3.Freedom from fear of possibly doing something that might benefit someone else more than it would him,
4.Freedom from the kind of pride that could make a man feel that he was better than his brother

 

黒人であるがゆえの理不尽な苦しみを感じながらも、その負の感情が自らをも縛りつけていることに対する戒めなのだろう。当時の黒人音楽家たちの心情を如実にあらわしたものであると思う。

 

ストレイホーンのエリントン楽団における功績は、音楽史上最高の共同作業と呼ばれ非常に評価が高い。その存在は一般にはあまり知られる事はなかったが、音楽家の間ではとても評価されているのは特に説明する必要もないことあると思う。ほぼ同世代のアレンジャー、ギルエバンスが「私がこれまでに試みたすべてのこと――それは、ビリー・ストレイホーンがしたことを再現しようとする試みだ」(David Hajdu著”Lush Life”より)と発言していることからも、当時の音楽家たちの評価が推測できるだろう。

 

今回のROOT NOTE of JAZZはビリー・ストレイホーンが黒人開放運動の先に見た精神の自由と彼のジャズにおける足跡の大きさ。

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川本悠自   Kawamoto Yuji

1978年千葉生。高校よりエレキベースを始め、立命館大学ジャズ研でウッドベースを始める。

1999年京都大学Dark Blue New Sounds Orchestraに所属し山野楽器ビックバンドジャズコンテストで優秀賞受賞。

2001年頃より都内近郊のジャズクラブ等で活動を始める。2007年アカペラカルテット「XUXU」と共作アルバム「アカペラ協奏曲第1番作品23」を発表。これまでにサックス奏者山口真文氏、ドラム奏者ジョージ大塚氏、ピアニスト辛島文雄氏などのバンドに参加。その他俳優の渡辺えり氏、三宅裕司氏のライブサポートやコンテンポラリー ダンサー山田うん氏とのコラボレーションなど活動は多岐にわたる。

現在は自らのグループで自己の音楽を追求するかたわら銀座七丁目にあるアートスペース 「スペースにはたづみ」の運営に携わり新しい芸術の発信方法を模索している。 

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