【部屋と洋楽と私 】第4回:子宮筋腫とスクリレックスと私

20代の模索

前回、私は「イラストレーターになりたいという夢を持っていた」……と書いたが、出版社への持ち込みに撃沈し、結局、大学を卒業すると、イラストレーターよりもプロデビューしやすい似顔絵師になった。そして仕事のコツをつかんだ2年目あたりから飛ぶように売れ始め、けっこうな貯金すらできたのであった。

そこで今度は大学院に進学することを決め、修士を出たら、どこかに就職しようとしたのだが……なんと勢い余って博士課程に進学したため、博士論文を書くことになった。なんとか博士論文を書き終えたら30歳になっていた。

30代で子宮筋腫になる

しかし20代でかなり無理をしたためにホルモンバランスが崩れたのか、30代に突入した頃から子宮筋腫という持病を抱えることになった。いったん休養する選択肢もあったかもしれないけれど、当時は、念願だったイラストの仕事や文章を書いたりする仕事を始めたばかり、しかもフリー。

駆け出し中の駆け出しだった私は、一度仕事に穴を開けると次が無くなるのがこわくて、体調が悪いまま35歳まで「前にしか進まぬマグロ」のように仕事をしていた。そして36歳になり、仕事の都合もあって上京したが、東京で子宮筋腫が多発性子宮筋腫(しかも10個)にバージョンアップしてしまったことで帰郷し、いよいよ覚悟を決めて手術することにした。

手術に備え聴いたスクリレックス

手術が決まったのはいいが、手術は約三カ月待ちだった。そこで、待っている三カ月の間に、「来るべき手術の痛み」に備えて、スクリレックスの曲を聴きまくった。なぜならスクリレックスの曲は “痛みに対抗できそうな脳内物質”が生成される感じ(あくまでも個人的印象ですが・・・)がするから。

ところで、スクリレックスとは誰なのか?

スクリレックスは2010年代から頭角を現し始めた現在28歳のエレクトロミュージシャン。いろいろなアーティストとのコラボの度に作風が七変化するが、どれだけ実験的なことをしても、あ、スクリレックスだ!とわかる個性も光る天才アーティストである。

ごく最近に出た新曲「No Chill」では、日本のヤンキーカルチャー(デコトラなど)も彼のミュージックビデオの世界観に取り入れており、おおよそのアメリカ人が理解していないであろうと思われる日本の「裏カルチャー」までをも取り入れているところが凄い。

スクリレックス=スクナヒコナ説

そして気になるのは、スクリレックスの本人の存在感である。私は彼のことが、古事記に出てくるスクナヒコナのように見えて仕方がない。とても小柄で、頭がいかにも良さそうで、エレクトロミュージックを演奏するときも飛び跳ねたりして動きがチャーミング。

そんな彼が、操作の難しそうな機器で音楽と映像を操り、多くの観客は彼の匠の技に魅了され、呪術的な熱狂が生まれる。この構図にスクナヒコナ的な神性を感じ、心惹かれるわけである。

さて、私の子宮筋腫の手術は無事終了したが、スクリレックスを聴いて術後の痛みが和らいだか?といえば、それは何とも言えない。ただ、ベッドの上で、iPhoneでスクリレックスの動画を観ては、その活力溢れる存在に大いに励まされたものだ。
 

イラスト解説

左・「古事記」よりスクナヒコナ

左下・入院中の私

右・天才エレクトロミュージシャン「スクリレックス」

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<イラスト/内藤理恵子>


内藤理恵子 Rieko Naito

naitorieko

1979年生まれ。著書に『必修科目鷹の爪』(KADOKAWA)、『現代日本の葬送文化』(岩田書院)などがある。Twitterアカウントは@drjoro.

 

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