【部屋と洋楽と私 】第1回:風呂とZIPと私

いまや、なにかと揶揄される洋楽ファン

 ここ最近、日本の洋楽ファンが主にネット上で「厨二病」「意識高い系」などと揶揄されてしまったことにより、周囲から隠れるようにして洋楽を聴かねばならぬ事態に陥ったことは実に残念である。

若い世代(20歳前後)に聞いてみても、洋楽を聴いている人は驚くほど少ない。「英語の歌詞が分からない」ことを洋楽避けの理由にする若者も多いが、実際には「周りから浮くことを避ける」という背景があるのではないかとも思う。

「カラオケの場で浮かないために皆が理解できる歌を覚えること」と、「好きな音楽を軸にして自分の内面の世界を構築していく楽しさ」は全くの別物で、私は後者の音楽鑑賞の楽しみを伝えたいのだが……若い世代には「厨二病を拗らせた大人の押し付け」にしか見えないのかもしれない。

きっかけは漢字書き取りコンクール

 とはいえ、私が洋楽を聴き始めた頃を思い返してみると、やはりちょうど中学2年だったので、「洋楽好き=厨二病説」もあながち間違ってはいないか?なお、私が洋楽を聴き始めたきっかけは厨二独特の自意識過剰ではなく、「漢字書き取りコンクール」であった。

漢字書き取りコンクールと洋楽、何がどう関係しているのかさっぱり分からないと思うが、説明すると、以下のような流れだ。

90年代、スクールカーストと音楽の密接な関係

 私が90年代前半に通っていた名古屋市内の私立中学(女子校)は、「名古屋市内のイケている人たち」と「郊外グループ」の二者に分かれていた。いや、正確に言えば、「名古屋市内でも郊外っぽい人たち」や「郊外に住んでいてもイケている人たち」も混在していたのだが、おおよそどちらかに分かれていた。

そして、私は「1時間以上かけて通学している郊外に住むイケていない中学生」であった。しかし、中学2年の私は、それを客観視する能力にも欠けていて、なぜか、うっかりイケている人たちのグループに間違って入ってしまった。そして結局、渋谷系バンドの話をする「イケている人たち」の話についていけなくなり、居場所を見失いつつあった。

そこで、良い点数を取ることでアイデンティティを保とうとした私が、当時、最も力を入れていた学内イベントが「漢字書き取りコンクール」である。私はコンクールの賞状を目指し、お風呂の中にまで漢字書き取りのテキストを持ち込み、風呂の蓋の上で勉強をするのが日課となった。

90年代のZIP-FMは熱かった!

 しかし、漢字の勉強は単調ですぐ飽きてしまうので、何かBGMが欲しいと思い、風呂場にラジオを持ち込み、電波を拾ってみたら、ZIP-FM(1993年開局の愛知県を放送域とするFM局)で、面白い洋楽が次から次へと流れていた。

開局当初のZIPの圧倒的熱量はおそらく現在30代〜40代の愛知県民にしか分からないと思う。お風呂のラジオを通じて途切れ途切れに聴こえてくる洋楽(注:当時、私が住んでいた名古屋市外では、音声が鮮明に聴こえなかった。しかも大型トラックが近くを通ると聴こえなくなった)を聴いていると、まるで映画『コンタクト』の中で、「宇宙人からのメッセージをモニターで受信する荒野のジョディフォスター」の気分になったものだ。

こうしてCDショップへ通う流れに……

 思えば、ZIPは商売上手で、繰り返しかけられていた曲は、その後「ZIPオリジナルのコンピレーションCD」として発売された。それをきっかけにCDショップに通うようになった私は洋楽のディープな世界にどんどん入り込んでいったのであった。

                              <続く>

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<イラスト/内藤理恵子>

ZIP-FMで当時よく流れていたイギリスのガールズバンドShampoo ……とそれを風呂で受信する私


内藤理恵子 Rieko Naito

naitorieko

1979年生まれ。著書に『必修科目鷹の爪』(KADOKAWA)、『現代日本の葬送文化』(岩田書院)などがある。Twitterアカウントは@drjoro.

 

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