第2回 自然倍音の数理の不思議「音楽のクオリア~不定調性論の挑戦~」

20140415

本連載の予定

第0回 序論(上)(下)

第1回 和声の存在を再確認する

第2回 自然倍音の数理の不思議
第3回 下方倍音列の活用
第4回 数理親和音モデル
第5回 和声単位という和声構築法
第6回 和声の分子構造
第7回 増四度環と裏領域
第8回 調という幽霊を発生させる和声の反応領域
第9回 和声二元論が成り立たない理由
第10回 長調と短調の二極化から旋調性へ
第11回 負の音を作ってみよう
最終回 まとめ~ドミナントモーションから動和音へ

(※進捗によっては、若干のテーマ変更の可能性もございます。ご了承下さい。)

 

皆さん、こんにちは。 今回考えるのは「音程って、一体なんだろう?」です。 この難問?をまた不定調性論的に紐解いてみましょう。

 

~自然倍音列の説明~

生のグランドピアノの低いドの音を、静かなスタジオで力強く叩いて、五秒ほど耳を傾け ていると、キ~ンと高いドの音が印象に残って聴こえてきます。 これは、低いドの音のピアノの弦の振動が、空気を伝ってピアノ内の蓋やら他の弦やらに ぶつかった時、ちょうど整数倍の振動数を持つ他の弦に共鳴しているからです。

 

自然倍音列とは、ある基準の音=ここでは低いドに共鳴する音を低い方から順にならべた 音列のことです(譜例 1 参照)。叩いたドの音の振動数比を 1 とすると、その振動数の比が 1:2 とか 1:3 のような簡易な整数比で表記できます。これらの音が自然共鳴発生していま す。

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譜例 1 を参考に、具体的に c1 を基音として、倍音列を書き出してみると、

 

c1-c2-g2-c3-e3-g3-b♭3-c4-d4-e4-f#4-g4-a4-b♭4-b4-c5
となります。

c2 は c1 の 1 オクターブ上の音で、c3 は c2 の 1 オクターブ上の音です。そ れぞれ基音=第 1 倍音 c1、第 2 倍音 c2、第 3 倍音 g2….第 16 倍音 c5 などと呼びます。

 

~オクターブレンジ~

まず自然倍音列の出現をオクターブごとに区切ってみましょう。
c1 c2(この範囲をオクターブレンジ 1 とする)
c2 g2 c3(この範囲をオクターブレンジ 2 とする)
c3 e3 g3 b♭3 c4(この範囲をオクターブレンジ 3 とする)
c4 d4 e4 f#4 g4 a4 b♭4 b4 c5(この範囲をオクターブレンジ 4 とする)

それぞれの範囲に「オクターブレンジ 1~4」と名前をつけます。

倍音は第 16 倍音以上も発生しますが、この連載の第一回でもみたとおり、不定調性論は あらゆる音をいったん 12 音に振り分けて考えます。

自然倍音列は第 17 倍音以上において 半音以下の振動数になって出現してしまいますので、不定調性論ではレンジ 4 までを採用 範囲とするわけです。

 

~音程の出現について~

次に各オクターブレンジを見てみましょう。まずレンジ 1 です。ここでの区分けは、 c1 c2

で完全八度という音程になります。この二つの振動数は、
c1 の振動数×2=c2 の振動数
c2 の振動数-c1 の振動数=c1 の振動数 という関係があります。次にオクターブレンジ 2 をみてみると、 c2 g2 c3

c2 g2=完全五度
g2 c3=完全四度
という二つの音程があります。また下記のような関係もあります。

c_1 の振動数×3=g2 の振動数
c1 の振動数×4=c3 の振動数
g2 の振動数-c2 の振動数=c1 の振動数
c3 の振動数-g2 の振動数=c1 の振動数
隣り合った音どうしは全て基音 c1 の振動数差で成り立っていることが分かります。しか し、なぜ同じ c1 の振動数差なのに、完全八度、完全五度、完全四度と音程差が狭くなっ ていくのでしょう?これはオクターブ音が現われるのが、初項 2、公比 2 の等比数列 2,4,8,16,32,64 の順だからです。

つまり第 2 倍音、第 4 倍音、第 8 倍音、第 16 倍_、第 32 倍音で c が現われます。つまり次の 1 オクターブ高い音を出すために、より多くの倍 音列のステップが必要になるわけです。

同様にオクターブレンジ 3 を見てみると、
c3 e3 g3 b♭3 c4

ですから、c3 e3=長三度、e3 g3=短三度、g3 b♭3=短三度、b♭3 c4=長二度という三種の 音程が出てきます。振動数はレンジ 1,2 と同様な関係を持っています。試してみてくださ い。
※自然倍音列、平均律の振動数表はこちらをご参考 下さい。

 

~音楽の分解能~

ここまでの作業は単純です。基音 c1 に c1 の振動数を足していった結果生まれる音を平均 律 12 音に近似値で振り分けて表記しただけです。それぞれの音程差は全部基音の振動数 なのに、様々な音程が現われました。

基音の振動数差でできる音程=完全八度、完全五度、完全四度、長三度、短三度、長二度、 短二度(オクターブレンジ 4 で出現)、増四度(オクターブレンジ 4 で出現)

たとえば完全八度=P8(perfect8th の略)のオクターブ=基音の振動数差とするならば、 完全五度=P8 オクターブの P5 化=基音の振動数差
完全四度=P8 オクターブの P4 化=基音の振動数差
長三度=P8 オクターブの M3rd 化=基音の振動数差…. ※P5=Perfect5th、P4=Perfect4th、M3=Major3rd(長三度)の略です。

という解釈表記をします。高次倍音になればなるほどオクターブに満たない音程になりま す。それでもその音程差は一貫して「基音の振動数」なのです。
ここでは便宜上<P8 の基音振動数差>、<P5 の基音振動数差>、<P4 の基音振動数差>、 <M3 の基音振動数差>、<m3 の基音振動数差>、<M2 の基音振動数差>、<m2 の基音振動数差>と呼ぶことにします。これを「オクターブステップ」と呼んでみましょう。 ※m3=minor3rd(短三度)、M2=Major2nd(全音)、m2=minor2nd(半音)の略です。

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またこう考えます。 「ある一つの基音がある時、その基音の振動数差をどのオクターブステップとして扱うか を第三者が決めることで、和音の構成音や、その目指すべき音楽性の音程分解のレベル 分けができる(基音の分解能)。」

自然界には極限に近い微小値で音程があります。高次倍音列が計算上無限に生成されることからも分かります。また微分音律の音楽を作る人やブルーノートを扱うブルースマンは、半音の 1/2 の音程分解のレベルで音楽を作っているといえます。

不定調性論は平均律ですから半音、つまり m2 の基音振動数差を最小値として考えるわけです。 ※不定調性論でも、応用編で半音以下の音を扱いますが、この連載では割愛します。

自然倍音列から生み出される基音の振動数差が作り出すそれぞれの音程を、それぞれ確立 し、音楽を扱う時どのレンジの基音振動数差を用いるか決めることができ、あらゆる音程 を自由に扱うことができます。

例えばピアノでブルースの旋律をデフォルメして表現する場合は、m2 の基音振動数差 (半音)を最小単位にして表現している、と考えることができます。半音以下のブルース の節回しをピアノでどこまで再現できるか、これはジャズピアニストの先人たちの功績を 見ればわかりますね。

 

今回のまとめです。 「音程とは、自然倍音列から生み出すことができ、その発生源は全て基音の振動数差であ る。この自然の数理を利用して音楽に活用することは、数学的美を音楽で用いることに なる。」

 

たとえば、長三和音を五度で弾いてみましょう。

C△⇒G△⇒D△⇒A△⇒E△⇒B△⇒F#△⇒C#△⇒G#△….

 

 

「五度圏」は同一の音程差で連鎖させる構造美ですが、これは各レンジ 3 にできる和音を、 各 P5 の基音振動数差のみを用いて連鎖したものです。

調性音楽では「主音」が音楽の中心ですが、この五度圏は「完全五度」という概念が中 心になった音楽的構造のモデル的形態ということもできます。

ロック系の音楽に「パワーコード<power chord>」というのがあります。これはルートと 五度だけで重々しいリフを刻みビートを作り出す二和音です。このパワーコードのリフの 一つ一つの和音にも当然三度音を入れることができますが、入れてみると意外と合わなか ったりします。

つまりパワーコードのリフにおける和音は、主音と完全五度だけで成り立 つ音楽であり、これはレンジ 2 の分解能と解釈することもできます。

 

ジョン・コルトレーンの“Giant Steps”では、下記のようなめまぐるしいキーチェンジ がなされます。
B メジャー⇒G メジャー⇒E♭メジャー⇒G メジャー⇒E♭メジャー⇒
B メジャー⇒E♭メジャー⇒G メジャー⇒B メジャー⇒E♭メジャー

三つのメジャーキーが長三度(短六度)で並んでいます。 これは音楽の中心が長三度という概念になっている (レンジ 3 の分解能)ともいえます。 この考え方を更に応用していけば、

C△⇒E♭△⇒F#△⇒A△

という短三度連鎖や、

C△⇒D△⇒E△⇒F#△

という長二度連鎖も、調的主音が中心になり構築する進行ではなく、基準となる各音程が 音楽の進行構築の中心的理由である、ともいえます。

これらを不定調性論以前は「非機能 進行」や「転調の激しい進行」と呼んでいたと思います。 不定調性論ではこれらの和声進行は「オクターブステップによる和音連鎖」と捉えます。 捉え方を変えれば、扱う意識も変わってくるでしょう。

こうした方法論の先には、Cm7 E♭m7 |B♭m7 D♭m7 |A♭m7 Bm7 |G♭m7 Am7 | というような奇妙な和声進行の理由を、調的な観念ではなく、オクターブステップの活用 という考え方からアプローチできるわけですね。

 

今回は以上です。

ありがとうございました。

 

ご質問、ご感想等はこちらまで。

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 terauchikatsuhisa

寺内克久  Katsuhisa Terauchi
 
大学卒業後専門学校にてジャズ理論を学びながら作曲/演奏活動、作曲家としてデビュー後大手音楽専門校へ就職。その後music school M-Bank発足と同時に、経営/運営スタッフとして、またギター・ウクレレ・ベース・作曲・DTMの講師として活動。
最先端のポピュラー/ジャズ和声学を目指し『不定調性論』を提唱し、レッスンでの活用、各方面での研究発表を行いながら、実践的で個性を活かす音楽レッスンカリキュラムのコンサルタントとしても活躍中。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム協会会員。毎週250kmを乗る、ロードバイカー。M-Bankの通信講座ブログ , 不定調性教材のお申し込みはこちらから

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