【対談 その1】「音楽を作った先にどうしたいのか」寺内克久(不定調性論)

taidan

 

音楽理論対談(1)「金子将昭×寺内克久」音楽理論と社会

 

金子:さて、音楽理論を拡大解釈して伝える音楽理論専門Webマガジン「サークル」の対談。今回は不定調性理論の寺内克久さんをお迎えして「音楽理論と社会」というテーマで対談していきたいと思います。

 

音楽理論とは音楽現象を記述して体系化されたもので、バークリーメソッド、機能和声、リディアンクロマティックコンセプトなど現在では様々なものがあります。私もそれを学んできたのですが、ここで一つ疑問が生じます。「なぜ音楽理論を学ぶのか?」。この問いの最もポピュラーな質問の意図は「音楽を作るのは自由なのに理論なんて必要ないじゃないか」というものです。

 

しかし今回の 質問の意図はこれではありません。音楽理論を使う・使 わずでも「音楽を作った先にどうしたいのか」。そして音楽理論の社会への還元の可能性も含めて、もう一つ先の話を不定調性論の寺内克久さんと一緒にして行きたいと思っています。

 

早速なんですが、まずは寺内さんの不定調性理論についてですが、これは従来の音楽を作るための理論とは別の要素ももっていると思うのですがそのあたりをまずお聞きして良いでしょうか。

 

寺内:皆さんはじめまして。いきなり剛毛な問いかけですね(笑)。前置きなんですが、実は「理論」と呼ぶのは、自分が生きているうちはおこがましいな、と思うようになって、普段は「不定調性論」って「理」を抜くんですよ(笑)。もちろん皆さんが どんなふうに呼んで頂いても、いつも有り難く思ってます。

 

金子:え!?本当だ!大変失礼しました。理論と読んでしまってました。購入させて頂いたPDFを見ても確かにそう書いてありますね。今後は不定調性論にします。すいません。

 

寺内:いえいえ、理論と呼ばれるよう頑張ります。不定調性論は「オレ流を作る」というのが到達点です。他者の理論を自身の創作活動に当てはめてみると、どうしてもフラストレーションがあると思うんですよ。でも最初は「それは自分が未熟だからだ」なんて思って耐え忍ぶんですが、しばらくすると「オレはこうしたいんだ!それを満たしてくれ!」みたいなところが出て来ると思うんです。そうして私も不定調性の青写真を作りはじめました。

 

金子:既存の理論や技法集を学んでいった中で、自己表現をもっと具体的にできるような、しかもそれらでは言及されなかった部分も取り込んだ理論・技法集を不定調性によって表現したいと思い始めたと言う事ですね。

 

寺内:はい。最後は「音楽を作るのは自由」だし、皆さん十分分かってますしね(笑)。ポピュラー楽理学習の到達点は、「オレは、オレ流でいいんだーッ!←ガッツポーズ&くす玉割!れる!」ですよ(笑)。でもこの視点は、自分が音楽スクールでいかに皆さんの個性を理解し、尊重し、自由度を伸ばすかを考えているという職場環境にも影響を受けています。

 

金子:そうなんですね。不定調性論に関して感じたのは、既存の理論では説明が付けづらいものに言及し ているのが面白いなと個人的には感じています。そこが自由度を伸ばす事に一役買っていますよね。

 

寺内:ありがとうございます。たしかにポピュラー楽理の「?」なところ全部を考えるんだ!って意気込みで書き上げたところがありますね。今も毎年改訂中ですが。

 

金子:先ほど寺内さんが音楽理論を学ぶ到達点は俺流を作る事と仰ったんですが、私が最近よく考えるのは「俺流を作ってそれをどうするか?」という命題です。つまり言い換えれば「音楽理論を使い世の中で何をするのか」です。

 

寺内:“楽理と実習”、永遠のテーマですね。

 

金子:そうですね。これは終身雇用制度が崩壊し新卒一括採用がなくなりつつある中で「電気工学を学んでどうしたいのか?」という現代の若者が 考えなければいけない問題とも通じるものがあると思います。

電気工学を学んでいるけどどうしても生音指向のジャズミュージシャンをやりたいのならすぐにジャズクラブのセッションに飛び込めば良いわけですよね。音楽を作りたいなら理論を学ぶ前にとりあえず歌ってみれば良いですしね。そして楽器を弾いてみる。できないなら楽器の練習。理論を通らずに実際それで曲を作っている人に何人も会います。

 

寺内:そこですね。オレ流が構築されるためには実践しかないですもんね。教材のほうでは「事例→実践→オリジナル曲への展開」までを視野にそれぞれのトピックを書いたつもりです。

 

金子:目的があってこそ何をするかが決まってくる。つまり何をしたいのかが重要ですよね。電気工学を学んでいる時間よりはそっちの方が得るものは大きいですよね。僕なんかは音楽で社会をつなぎたいなと考えていますし、今こそこういった事を考えるべきなのかなと感じていますがその辺りはどのようにお考えですか?

 

寺 内:実際、楽理研究ばっかりやってると、楽器弾けなくなりますしね(笑)。

 

金子:そうですね。研究が趣味になってしまうともったいないですよね。政治家を仕事にするのがいけないように(笑)

 

寺内:音楽家を語って音楽作らなくちゃ意味ない、って話ですよね。私も結構そこがコンプレックスで、理論理論って頭でっかちにならない方法論があったらいいな、と思って理論を作った、ってなんだか矛盾してますね、どうなんだろう。

 

金子:もっと言えば、私は音楽家だからといって音楽を作る必要もないと考えています。例えばダルクローズの開発したリトミックの発想なんかは演奏を専業としていると絶対でてこないアイディアですよね。彼は教育者であり作曲家で すが、そういったアイディアを音楽というツールでもって表現する事もできるわけですよね。さらに言えば一級品の演奏家だからこそでてくるアイディアもありますよね。

 

寺内:なるほど、ちょっと目から鱗です。

 

金子:今までは技術をそのまま使うだけではなくもっと変化の可能性があるんじゃないかなと思っています。目的がありそれを達成するために学ぶ。そこのクローズアップが新しいものを生み出す事になるんじゃないかと考えています。

電気工学を学んだミュージシャンは電気自動車と音楽を組み合わせた新しい音楽体験を考えだせるかもしれない。その辺りは音楽を様々なもの、それこそ社会やビジネスの現場、飛躍しすぎるかもしれませ んが和声論は経営の仕組みにも応用できる可能性もあるわけですよね。特に12平均律は会社組織にとっても似ているとすら思う時もあります。

 

寺内:理論や技法を知ってる、というのは会社で言えば、経営ノウハウを知ってる、ような感じですよね。私もサラリーマンやってたので分かります。でも本当に面白いのはノウハウを逆手に取って「それ、そう使うか!」って瞬間ですもんね。発想の転換て大事だし、面白いし、インスピレーション涌きます。

会社と言えば私達のスクールには社会人の方が多く通われているんですが、とにかく練習時間もないし勉強している時間なんてない社会人の方に不定調性論は意外な活用法があったんです。

 

金子:それはどういったものなんですか?

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金子将昭  Masaaki Kaneko http://www.masaaki-kaneko.com/

1982年富山県生。洗足学園音楽大学音楽学部ジャズ科ピアノ専攻卒。

大学にギター科で入学後、19歳を目前に経験ゼロのピアノを弾くことを決意し、二年次よりジャズピアノ科へ転専攻。卒業後ピアニストとして自己のバンドなどで活動する。今まで堂本光一、大橋卓弥(スキマスイッチ)、imalu、ジョナサン・カッツ、類家心平、マークトゥリアン、フレッドシモンズとのセッションライブやバンドサポート、ミュージカルなどでピアノを担当。

サポート仕事と和風なジャズを演奏する自己の音楽活動と並行しながら、日本初の音楽理論Webマガジン「サークル」編集長、合同会社 前衛無言禅師(ぜんえいむごんぜんじ) 代表社員、東京音楽理論研究大学主催、音楽共有アプリ「We Compo」の開発、ミュージシャンシェアリング企画「1A1L(ワンエーワンエル)」プロジェクト推進、フリーランス向けの確定申告サイト運営など多岐に渡る。

 

 terauchikatsuhisa
寺内克久  Katsuhisa Terauchi
 
大学卒業後専門学校にてジャズ理論を学びながら作曲/演奏活動、作曲家としてデビュー後大、手音楽専門校へ就職。その後music school M-Bank発足と同時に、経営/運営スタッフとして、またギター・ウクレレ・ベース・作曲・DTMの講師として活動。
 
最先端のポピュラー/ジャズ和声学を目指し『不定調性論』を提唱し、レッスンでの活用、各方面での研究発表を行いながら、実践的で個性を活かす音楽レッスンカリキュラムのコンサルタントとしても活躍中。日本音楽理論研究会幹事。日本リズム協会会員。毎週250kmを乗る、ロードバイカー。M-Bankの通信講座ブログ , 不定調性教材のお申し込みはこちらから
 
 

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